医療・介護・教育・接客などの現場では、本心とは別に求められる感情を整え、
表出する「感情労働」が日常的に発生します。これは情緒的消耗や離職リスクにも影響しうる重要なテーマです。
本研究では、色彩心理に基づく「カラータイプ理論」を用いて、ストレスのチェック項目を作成し、
40名を対象にアンケートを実施しました。
その結果、カラータイプごとのストレスの特徴や違い、またストレスを受けやすいタイプが見て取れました。
カラータイプ理論と感情労働やバーンアウト(情緒的消耗・脱人格化・個人的達成感の低下)との応用として、
本テーマをご覧ください。
カラータイプ理論は、色彩心理をベースに、カラーコンサルタントの
河野万里子が2009年に開発した性格タイプ分類の理論です。
13色で個人の資質を可視化できる点が特徴で、色のスコアに応じて
「決断タイプ」「創造タイプ」「協調タイプ」「堅実タイプ」の4つに
分類されます。
それぞれの強みやこだわり、さらにタイプごとの
コミュニケーションスタイルを理解することで、
チームワークの向上や組織開発にも幅広く活用されています。
カラータイプ理論を活用したストレスチェックの研究は
2009年にスタートしました。
きっかけとなったカラータイプ1級インストラクターA氏の声からです。
講座の課題には、40名分の診断シートを分析するワークがあります。
受講生と一緒に「この方に勧める色は?」「どんな言葉が響くだろう?」と検討を進めるなかで、新たな気づきがありました。
同じ診断シートであっても、ある人からは“生きづらさ”が
にじみ出ているように見える一方で、別の人からは
“のびのびとした気質”を感じとることができました。
つまり、診断を通じてその人が抱えているストレスや課題の“兆し”を読み取れるのではないかと気づいたのです。
この背景には、カラータイプ診断が「好きな色」「嫌いな色」だけでなく、
「気になる色」「避けたい色」といった選択も含めて把握する仕組みがあります。
そこには、その人の価値観や現在直面している課題が反映されており、色を通して潜在意識や心の声が表れます。
このような経験をきっかけに、「会ったことのない人でも、診断結果からストレスのサインを“未病”の段階で
読み取れるのではないか」という考えに至りました。
ここから、カラータイプ理論を応用したストレスチェックの構想が始まりました。
感情労働とは、自分の本来の気持ちとは異なる感情に整えて、仕事上で表現することが求められる働き方を指します。
接客や医療、教育など、人と関わるサービス業務では特によく見られる特徴です。
その方法には大きく二つあるといわれています。
表層演技(Surface Acting):心の中では違う気持ちを抱えていても、表情や態度で取りつくろう方法。
例:疲れていても笑顔で接客する。短期的には有効ですが、心とのギャップが大きいと負担になりやすいとされます。
深層演技(Deep Acting):気持ちそのものを切り替えて、自然な感情として表に出す方法。
例:患者や生徒に寄り添い、本当に安心感を持って接する。
違和感は少なくなりますが、気持ちを変えるには大きなエネルギーが必要です。
こうした感情の調整は、人と関わる仕事に欠かせないものですが、積み重なると心の負担となり、
バーンアウト(燃え尽き症候群)につながることがあるといわれています。
バーンアウトは主に次の三つの側面で説明されます。
こうした状態は重なり合って進んでいくことがあり、気づかずにいると心や体に負担がかかり、
仕事にも影響してしまう可能性があります。
そのため、なるべく早く気づいてケアしていくことが望ましいと考えられています。
感情労働は、人と関わる仕事に欠かせない一方で、「本当の気持ち」と「求められる態度」との間にギャップが生じやすく、
そのことがストレスの一因になるといわれています。
たとえば、本音を押し殺したり、感情を使いすぎたり、理想と現実の違いに悩むことで、心身が疲れてしまい、
結果的にバーンアウト(燃え尽き症候群)につながることもあると考えられています。
つまり、感情労働は人に必要とされる能力であると同時に、心を消耗させる側面も持っているといえるでしょう。
そこで開発されたのが、カラータイプ理論を応用したカラータイプ診断ストレス度チェックシートです。
本研究を進めると、感情労働によるストレスの受け止め方や回復のしやすさには、
タイプごとに特徴と違いが見えてきました。
カラータイプ診断ストレス度チェックシートは○/△/×で答えられる形式で、自己肯定感や価値観のズレ、
繊細さの傾向などを簡易的に確認できるよう工夫されています。
観察ポイント例:
このチェックは診断を確定するものではなく、あくまで気づきのきっかけとして位置づけています。
感情労働の現場におけるセルフケアや、周囲との関わり方を考える手がかりとして活用できる可能性があります。
本研究では、40名分の診断シートを集計することで、タイプごとのストレス傾向が示されました。
その中で特に目立ったのは 協調タイプで、他のタイプに比べてストレスの指標が高く出やすい傾向が確認されました。
協調タイプは「人の役に立ちたい」「調和を大切にしたい」という強みを持つ一方で、
「自分を後回しにしてしまう」「相手の期待に応えようと頑張りすぎる」といった場面で、
ストレスを溜め込みやすいと考えられます。
この集計結果からは協調タイプが特にストレスを抱えやすいという特徴が浮かび上がりました。
本研究では、カラータイプ診断ストレス度チェックシートと、従来から用いられてきた日本語版バーンアウト尺度を
組み合わせて検証を行いました。
その結果、両者の間には一定の関連が見られ、カラータイプ診断を通じたチェックが
「バーンアウトのリスクを早期に把握する手がかり」となり得る可能性が示されました。
具体的には、
このことから、CTストレスチェックは単独で診断を確定するものではありませんが、
既存の心理尺度と組み合わせることで、ストレスの把握や予防の観点で役立つ可能性があると考えられます。
詳細なデータや分析結果については、該当の研究論文をご参照ください。
看護師は、患者さんに安心感を与えるために「本当の気持ち」とは違う感情を表に出すことが多く、
感情労働の負担が大きい職業だといわれています。
その負担は、離職のリスクや仕事への満足度低下にもつながる可能性があります。
本研究の調査では、看護師30名にアンケートを取った結果、 協調タイプ が最も多く、
患者さんを第一に考えて感情をコントロールする特徴が出ました。
一方で、堅実タイプは「職務を忠実に」、決断タイプは「主体的に判断して」、
創造タイプは「自分らしい関わり方で」といったように、それぞれのタイプで感情労働のスタイルの違いが出ました。
この結果から、カラータイプ理論は看護師の感情労働の特徴を整理し、ストレスの軽減や働き方の工夫を考える上で
役立つ可能性が考えられます。
詳細なデータや分析結果については、該当の研究論文をご参照ください。