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色や物の不思議な見え方 - 側抑制① 後編 色や物の不思議な見え方 - 側抑制① 後編 


今回はこのいくつかある特性の中の網膜内で起こる側抑制(側方抑制ともいう)という特性についてお話します。


みなさんが、リンゴの絵を描く場合どういう風に描きますか?

 

図4. リンゴの絵?
 
私はあまり絵心がありませんが、丁寧な人は、全体に色をつけ、さらに、光の当たり具合で、光っている様子も描くかもしれませんね。でも、リンゴなら、簡単に描く場合は、図4の一番左もしくは、赤のペンがあれば、2番目のように輪郭線だけで描く人が多いのではないでしょうか?
リンゴだけに限りませんが、人は、輪郭線を強調した絵を描くことが多いのではないでしょうか。
漫画なども輪郭線だけで、いろんなものを表現していますよね。
そして、その絵を見た人はどうでしょうか?例えば、輪郭線だけで描いたリンゴを見ても、リンゴの絵であることはわかるのではないでしょうか。このことが、網膜内で起こる側抑制と関係します。
この側抑制は、網膜に映った像を処理する時に生じます。側抑制によって網膜に映った像の輪郭をはっきりさせ、輪郭を強調した上で脳に情報を伝えるのです。だから、逆に輪郭線だけで描いた絵を見ても理解できるのでしょう。
私たちは、明るさや色合いなどが変化する部分には、実際にないはずの輪郭線があるように感じられます。それは、モノを的確に捕らえるため(外敵や食べ物を見分けるためなど)に備わったものだと思われます。私たちの視覚は、実際には輪郭線のない三次元空間でも、この側抑制によって、モノの輪郭をはっきりさせるように働いているのです。色合い・明るさ・色の鮮やかさが変化している部分を強調し、輪郭を捕えようと働くのです。
 では、この輪郭線を強調する側抑制という特性は、具体的にどういう性質で、どこで、どうして生じるのでしょうか?
側抑制とは、字が示すとおり、側(そば)を抑制する作用のことです。
    光の信号は、視細胞で神経信号に置き換えられ、図5のようにいろんな細胞を経て、神経節細胞から視神経を通って脳へと送られていきます。側抑制は、このうちの視細胞から神経節細胞に送られる時に生じています。
 


 図5. 視覚情報の経路(網膜)    


                            網  膜

 

 網膜内で起こる側抑制の作用を模式図に表したものを図6に示しました。(図を単純化するために、双極細胞水平細胞アマクリン細胞は省略しています。)

眼に入ったの刺激によって、視細胞は反応   
し、 図6のようにそのの強さに応じた信号
赤の矢印)を神経節細胞に送るのですが、
それと同時に、 その周りの神経節細胞には、
その逆の興奮を抑制する信号(青の矢印
も伝達されるのです。この周りの細胞に興奮を
抑制する信号を送る作用のことを側抑制と言い
ます。そして、その作用によって、輪郭線の存在
を強調するのです。

では、どうしてこの側抑制という作用によって、輪郭線が強調されるのでしょうか?
 図6~8を使って、例(数字)を示しながらお話します。先ず、視細胞1つの場合(図6)から見ていきましょう。視細胞に、例えば、10という強さの(黄の矢印)を受けたとします。視細胞は、それを10という強さの神経信号に変え、神経節細胞に伝えます(赤の矢印)。それと同時に、周りには、逆の作用の神経信号を抑制する情報(青の矢印)も伝えるのです。図6では、その抑制する作用を説明上、仮に伝えるべき神経信号の0.2倍として示しています。ですから、10という強さのを受けた場合、周り(図では、両隣)には10×0.22の分だけ抑制する信号を送ります。抑制なので、図では、マイナスと示しています(以下の図でも同様)。

 図6では、1つの視細胞だけを考えましたが、次に、視細胞をいくつか並べて考えます。
 図7は、視細胞全てが同じ明るさのを受けた場合です。
 
 

図7. 網膜内に起こる側抑制の模式図(その2)-視細胞が複数の場合

 

 

図6と同様、視細胞は、10というを受けた時、10という強さの神経信号(赤の矢印)を神経節細胞に伝えます。それと同時に、周りにも2の抑制信号(青の矢印)も送ります。
ではここで、神経節細胞では、どのようなことが起こっているかを見てみましょう。

 

図7のように全ての神経節細胞では、それぞれ10という信号と、両隣からの2の抑制信号を受けることになります。差引合計10226という信号を受けることになるのです。
このように、明るさが均一な面を見た場合では、全ての神経節細胞で同じ強さの信号()を受け取っています。
 
では、次に明るさが異なる境界線がある場合について考えて見ましょう(図8)。
 
図8は、左半分は10という明るさの面、右半分は20という明るさの面を見た場合の模式図です。
図8では、左側から1番目と2番目の部分は、図7と同様に神経節細胞では、10226という信号を受けています。でも、境界線付近をご覧下さい。
図の左から3番目の部分の神経節細胞の所では、10244と受ける信号量が少なくなっています。これは、どうしてでしょうか?

 

  

図8.網膜内で起こる側抑制の模式図(その3)-明るさの境界がある場合

 

 

 
 
これは、その右隣(左から4番目)は、20という強さのを受けている部分になります。その部分では、強いを受けた分、抑制信号も強くなります(20×0.24)。明るい部分は、暗い部分に比べ、抑制する信号も強いのです。
だから、左から3番目の場合は、明るいを受けている部分に位置する視細胞から、より多くの抑制信号を受け、トータル的に少し信号量が少なくなるのです。すなわち、より明るい領域と隣接する境界付近では暗く見えてしまうという錯視現象が生じてしまうことを意味しています。
そして、説明を省略しますが、左から4番目の神経節細胞には14という信号、左から5番目、6番目の神経節細胞では12という信号を受けています。これは、より暗い領域と隣接する境界付近では先ほどとは逆に明るく見えるという錯視現象が生じてしまうことを意味します。
このように、シュブルール錯視(図1)のように明暗に差がある場合、側抑制の作用により、境界付近では、明暗が強調され、境界線を強調、すなわち輪郭線を強調するのです。
 
このように、網膜が元々から持っている側抑制という性質で錯視が生じていたわけです。
 
 
 
最後に、シュブルール錯視(縁辺対比)と関連した対比現象に関する面白い錯視の例を少し挙げておきます。

図9.シュブルール錯視を有彩色にすると
 有彩色にしても同様に境界線を強調するように働き、縁辺対比という錯視が生じています。


 

 図10.コフカの環

リング状のグレーの部分がつながっている時は一様に見えるのですが、切断されると右側半分は、
左側半分に比べると暗く見えてしまいます。(明度対比:側抑制により生じます。明度対比については、次回以降でお話しする予定)
 
 

図11.2匹のねずみ
 2匹のねずみは、色は同じです。でも、背景を黒からグレーのグラデーションにすると、右のねずみは、左に比べ、やや暗く見えます。(これも明度対比)

 
 今回は、眼から脳への経路の元々から持っている特性のうちの網膜内で起こる側抑制を取り上げ、錯視現象について見てきました。
 次回も側抑制を取り上げますが、少し違った現象を見ていきたいと思います。
 
 
 
 
 
引用HP
 図3:眼の構造と働き
 図4フリーイラスト集・素材集【りんご イラスト】
 無料素材|フリー素材|イラスト|WEB素材-Memory-りんご イラスト3D/無料素材
 
参考文献(順不同)
 鈴木光太郎監修 「脳のワナ―きっとあなたもだまされる 」 扶桑社
 北岡明佳著 「だまされる視覚 錯視の楽しみ方 (DOJIN選書 1) 」 化学同人
 ジャック・ニニオ著 「錯覚の世界―古典からCG画像まで 」(鈴木光太郎、向井智子訳) 新曜社
 
 
 
 
 
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